†祷†

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  そうして、 ロアを抱き上げ、 案内されるまま、 クロアが辿り着いたのは 聖域の果て。 森を抜けた直後にある 僅かばかりの平地と断崖。 断崖の先にあるのは、 夕焼けの黄金に染まる 聖界の空と、 郷愁を喚ぶ、 黄金色の天空に浮かぶ 6つの階層。 下層から吹き上げる柔らかな風。 息を呑み、目を見張る程の 大空の黄金世界。 思わずロアを抱き上げたまま 立ち尽くすクロアに、 「綺麗だな」 ロアの優しい、穏やかな感想。 「はい、とても素晴らしいです」 心からロアに同意するクロア。 クロアの腕の中から、 黄金色に染まる聖界を 慈しみの眼差しでロアも見詰め、 「だが、夜の景色も美しいんだ」 まるで、 同じ場所から違う時間の景色を 観たことがあるロアの呟き。 予想はしていたが、 やはり、 ロアの呟きに驚いてしまう クロアの腕から、 ロアは降り立つと、 断崖の端まで歩いて行く。 そして、 眼前に拡がる下層を見下ろし、 「ここは…、」 背後に立つクロアへ向け、 「私が生まれて初めて……聖殿を逃げ出し、辿り着いた場だ」 諦めと失意。 それらを克服した胸中の想い。  
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