†祷†

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  「昔………、たった一度だけ、私は聖殿から逃げた」 クロアには明かされなかった ロアの過去の一つ。 無理矢理に生かされた直後、 心が壊れる前に、 聖殿から逃げたロアの記憶。 どうやって、 聖殿の結界を抜けたのか、 何故、 こんな遠くまで 辿り着く事が出来たのか。 当時も、今も、 ロアには思い出せない。 ただ、 必死に走り続けた事だけは 覚えている。 何度も転び、傷だらけになって 走り過ぎた為に息が上がり 呼吸を喘ぎ、吐きながら、 この場の、 ロアの立つ断崖の端まで 辿り着いた。 後は、 そこから下層へと、 飛び出せば聖域から 逃げられたのかも知れなかった。 力が封印されているロアには 翼が無いけれど、 何故だか、 ロアは命の危険を感じなかった。 「クロア」 「はい」 「ここから手を出してみろ」 「はい…?」 過去の思い出を語り終えると 断崖の外へと手を出せと ロアはクロアに命じてくる。 ロアの意図は分からないが、 取り敢えず、命じられるまま、 ロアの傍らに立ち、 断崖の外へ腕を伸ばし、 手を出すクロア。  
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