14人が本棚に入れています
本棚に追加
今年は十七年に一度羽化し、大量発生する蝉の当たり年らしい。
蝉の鳴き声は、例年に比べて、激しく、強く。
まるで、晴天の空から、強い雨が降るように、鳴き声は響く。
蝉時雨(せみしぐれ)。
まさに、そんな言葉がふさわしい。
その。
騒がしく、炎天下に揺らめくアスファルトの道を、左手から血を流し青年が一人。
ふらふらとよろめくように、歩いていたのだ。
平日の昼間である。
まばらに道を行き来する人々は、社会から引退した老人か、小さな子どもの手を引いた、母親たちばかりだ。
皆、少しでも涼しさを得ようと、木陰を探しながら歩くから。
歩道がどんなに広くても。
行き交う人は、すぐ側を通り抜けることになる。
そんな人々の一人。
生後。
ようやく外に出せるようになった赤ん坊をベビーカーに乗せて、道を急いでいた若い母親が、歩道で『彼』とすれ違いかけ……立ち止まった。
ふらふらと道を歩いていた場違いの男が、タレント顔負けのイケメン……美男、だったからか?
毎晩旦那を待ち、今現在も、その愛の結晶である子どもを連れていながら、ふと。
浮気に走ってしまいそうになるほど、妖艶な雰囲気を持っていたからか?
それは、否(いな)……
最初のコメントを投稿しよう!