出会いを過度に期待する事なかれ

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今日も朝から ブランコに座っていた 私の住んでいるマンションはファミリー向けの分譲マンションで 休みの日は このブランコとすべり台しかない小さなプライベートパークは 親子連れであふれている けれど平日の朝早く ここにいるのは スズメと私だけ カフェオレも飲んだし そろそろ出勤準備でもしよう、と考えていたら 「おはようございマス、お姉さん」 前の方から低く、けだるげな声がした 顔を上げた先にいたのは 一人の男性で ここでドラマや小説なら イケメンとの運命の出会いだわ! って事になるんだろうけど 残念ながら 全くそんな事にはならなそうだ だって目の前にいるのは  どこからどうみても ……不審者 「い、や、……痴漢!?」 慌てて逃げようと立ち上がった その時 「あ、おい!……あっぶね」 「…っ」 気付いた時にはその男は私を抱き留めていて、次の瞬間にはその男の背中にはブランコが直撃していた 「いてっ」 男から急いで離れて考える ここはマンションの プライベートパークだ、しかもここは一等地に立つ高級マンション警備も万全で部外者はまず入ってこられない と、言うことは ここで背中をさすってるこの男は不審者では無く…住人? いきなり立ち上がった為にバランスを崩して転びそうになった私を助け、その弾みで暴れ出したブランコを変わりに背中で受け止めてくれた、これは……いわゆる 「お姉さん、 恩人に対してせめて一言ない?」 そう彼は不審者じゃない…? 「すみませんでした。助けて頂いてありがとうございます」 いまいちふに落ちないけれど ここは穏便にすませたい 「どういたしまして。ご無事でなによりです」 私の態度に気を良くした男はそのまま、大人しくなったブランコに腰掛ける でも、ちょっと待ってよ そのいでだちで いきなり女性に声をかける方が どうかしてる 大きなあくびをしながらこっちを見る彼は 歳は30代中頃だろうか 寝起きなのかボサボサとしたもっさりヘアーに黒ぶち眼鏡、そして無精髭。あっちこっちに黒いシミがついたヨレヨレの半袖シャツに半ズボン、はき古した年期の入ったサンダル 朝だからってこれは無い
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