プロローグ

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広い広いお屋敷で、声をかけてくれた人。 冷たい冷たいお屋敷で、笑顔を向けてくれた人。 「見てみて、綺麗でしょ。これ、あまりにあげる」 ピカピカ光る、宝物をくれた人。 「いつかきっと、あまりの居場所を、あたしが作ってやるからね。約束!」 歳の変わらない姉の奏江(かなえ)だけは、あまりにとって唯一の絶対者であり、家族だった。      * * * 館小路(たてのこうじ)家には必要のない、余った子。 それが、あまりの名の由来だ。 館小路家は、日本で唯一のこと箏の名家である。 現家長、総一郎と厨女(くりやめ)との間に生まれたあまりは、病院での産後のケアも受けぬまま、まるで隠されるように館小路家へと引き取られた。 母親である女中は、あまりを産んだ直後にこの世を去った。 よって、館小路屋敷にあまりの居場所はない。 学校から屋敷に帰ったとしても、じっと部屋に閉じこもるだけだ。 用がある時以外に部屋から出るなと言いつけられているし、あまりから出る用事もない。 だから毎日、宝物を片手にほうらい宝来川にかかる橋の下へ立ち寄る。
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