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「ヒントをあげましょう」
それが、彼女の口癖だった。
仄かに金木犀の甘い香りを漂わせる、白い、白い彼女の。
何でも知ってて、誰にでも優しいのに、何を訊いても決して答えだけは教えてくれない、彼女の。
人が困り果てて質問しているのに、彼女は決まって朗らかな、それでいて小悪魔的とも言える微笑みを浮かべてそう言うのだ。
でも、こんな状況でも『いつも通り』を崩さないそんな彼女の態度に、彼女らしい、と言える程今の俺の心に余裕は無かった。
「ヒントその1。 ワタシがこのまま生きていてはこの戦いは終わりません」
それでも彼女は、歌うように。
「ヒントその2。 ワタシではこの戦いを止められません」
或いは、己の無力に打ちひしがれる勇者を嘲笑う、魔王のように。
「ヒントその3。 ワタシは自らを殺す事は出来ません」
それとも、愚かな子供を諭す慈母のように、だろうか。
いずれにせよ彼女は答えを教えてはくれない。 だから、決まって最後はこう言うのだ。
「キミの答えは、何ですか──?」
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