せっ、せっ、せーふ!

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俺の家族は俺、母親、父親 の3人家族だ。いや、3人家族だった。 父親は仕事で殆ど家には帰って来なくて、 たまに帰ってきても直ぐに自室に籠ってしまい、殆ど顔を会わせることがなかった あの日は朝から小雨が降り続け 部屋はジメジメして居心地が悪かったのを今でも覚えている いつものように数日間空けて父親が帰って来た でも、あの日はいつもと同じ様にはならなかった いつも直ぐに自室へと籠る父親はリビングへと来ると 俺に「部屋に行ってなさい」と言って その大きな手で優しく、でも何処か壊れ物にでも触るかのような手つきで頭を撫でた その表情は固く、だが子どもに無理に笑いかける様な強張った表情だった 嫌な予感しかしなかった 子ども心に、まずい、何か悪い事が起きてしまうんじゃないかと感じた 悪い予感を頭から無理矢理振り払い、部屋に行くふりをして階段に座り2人の会話を聞いていた あまり会話は聞こえてくることはなかったが たまに聞こえてくるのは知らない女の人の名前だった 時間にして数十分 いやもっと短いかもしれない リビングから静かに出てきた父親は靴を再び履くと 傘をさして出ていってしまった そしてそのまま帰ってくることはなかった ずっと前の、遠い記憶。今でも鮮明に思い出せる遠い記憶。
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