オーブンブブブン♪

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ジクスさんの部屋のベットには脱ぎっぱなしのパジャマが投げ捨てられている 「ジクスさんったらだめじゃん 皺になるから畳んでおこう」 畳終わったパジャマを枕元の横へと置き シーツや掛け布団を直す 「出来た! ジクスさんもびっくりするだろうな 綺麗に直ってるんだから」 頭では理解していた もう帰ってこないことを コップを綺麗にしてジクスさんがいつでも飲めるようにしておいても ベットを綺麗に直したり、パジャマを畳んでも 誰も帰ってこなくて、二度とその物を使う人がいないことを頭で理解してはいたつもりだった。 だけど、それが今日の朝までの普通で、当たり前だったのだ この家に住まわせて貰って、家事全般が俺の担当となって、毎日の日課にもなった ジクスさんが帰ってこない事を頭では理解していようが この数日、数週間で体がその行動を覚えてしまったんだ 誰も帰ってこないけれどやってしまう 心が追いつかない とても悲しくて寂しくて悔しくて虚しくて 涙が静かに零れ落ちる シトシトと静かに 誰にもわからないほどに 自分でさえも気づかないほどに静かに零れる 涙は頬から顎へ伝い、手へと溢れる 涙は自分の体温を微かに残すように温もりを少し残して落ちる 落ちた涙で気がつき頬や顎を手で拭うと唇に触れ血が手についた 少し温かさのある涙、唇から出ている血 ‥‥俺は生きている ジクスさんは死んで、俺は生きている 俺だけが生き残ってしまったんだ 村人から愛され、信頼されていたジクスさん 大好きだった、ジクスさん 俺の大切だった人。 もう2度と会えないんだ。 もう2度と声を聞けないんだ。 悲しさが溢れて溢れて止まらない 気づいたら声を上げて泣いていた 子供のように泣きじゃくっていた 何時間も何時間も 日が段々と隠れても辺りが暗闇で何も見えなくなっても 何時間も何時間も 声は掠れ涙が枯れ果ててもずっとジクスの部屋で泣き続けた
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