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はあ、ともう何度目か解らない溜息をついて、少しばかり眉間に皺を寄せた。
納得がいかない。腑に落ちない。
だが実際の現状が原因から目を逸らすことを許さない。
「……別に。友人など、要らない」
負け惜しみに聞こえるそれを本気で呟いて、荊棘は柵に凭れた。
と、その時だ。
不意に聞こえた、細く微かな悲鳴――否、鳴き声。
驚いて首を巡らせ、今自分が上がってきた階段塔の、その裏へと足を向ける。
慎重に足音を消して進んで、丁度真裏。
其処にあった光景に、荊棘はぎょっとした。
にゃあ、と細い声――先刻聞こえたそれは、猫の声。
しかも一匹ではなく、更に言えば其処に居たのは猫だけでもなかった。
「……確か、菊……」
同級生の一人。殆ど、と言うか未だ一度も話をしたことがないが、ほわほわとした雰囲気の割に成績がかなり良いのは知っている。
因みに一度も話したことがない理由は、授業中以外で荊棘が見る菊は、常に寝ているか眠そうかのどちらかだからだ。
そして今も、菊は気持ちよさそうにすよすよと眠っている。三匹の猫に囲まれて。
この三匹は荊棘も寮で見たことがある。と言うか隣接しているとは言え、学校にまで出入りしていることに驚いた。と同時に、野良らしいのにやたらと菊に懐いているのが気になった。と言うか、……少しばかり、羨ましい、ような。
「いや、そんなことはない!」
自分の思考に思わず否定の声を上げてしまって、その滑稽さに表情を歪めた。
猫たちは一斉にこちらを見上げてきていて、気まずさが倍増する。
……いや、羨ましい、などということはない。ただ、荊棘は人をあまり好きではないが、猫はそうではない。嫌いではない。だからそう、少し、少しだけ、悔しいような。いやこれも違う。そうではなくて。
一人悶々と思考をめぐらせる荊棘の顔は傍から見れば百面相であるが、幸い此処にはそれを指摘する者は居なかった。
そのままぐるぐると考えを続けていた荊棘の視界の中で、漸く気配に気付いたのか――こんなことで大丈夫なのかといっそ心配な程に熟睡していた菊が、身動ぎした。
「……んー……」
もぞもぞと身体を動かし、覚束ない様子で手を動かすのは、傍の猫の姿を探しているのか。
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