陽の当たる場所。

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どうしたものかと思いながら、逃げ出すような真似が出来るものかと訳のわからない意地でもってじっと見詰めていると、やがてぱたりと閉じていた瞼を開いた。 ぱたぱたと幾度か瞬きし、それから傍らの猫たちにほわりと微笑い、それからふっと、荊棘を見上げた。 なんとなく変な緊張と共に無言で見守ってしまっていた荊棘に向けて、菊は不思議そうに瞬き小首を傾げる。 「……荊棘? どうしたの……?」 菊の言葉に、荊棘は自分でも驚くくらいに動揺した。 菊とは今までに一度も話はしていない。同級生、と言うだけで、他の接点は一切ない。 それなのに菊が荊棘を知っていた、そのことに本当に驚いたのだ。 いや、勿論荊棘も菊を知っているのだし、その逆もあって当たり前だと思う。 会話をしたことがなかろうが、同じ教室で授業を受け、寮生活も共にしている。 だから本来ならば知っていて当然のことに、……だが荊棘は心底吃驚した。 驚きうっかり硬直してしまった荊棘に、菊はやはり不思議そうにしたが、その顔が何かに気付いたようについと逸らされた。 つられて同じ方へ荊棘も視線を転じると、先刻耳にしたよりも更に小さな声が、上から。 見上げれば、階段塔の上に猫、と言うか仔猫。 上に昇るには梯子を使うしかないのだが、多分好奇心に負けてその梯子で昇ったはいいものの、降りられなくなったのだろう。 そもそもこの小ささで梯子をよく上れたと思うが、必死でやれば出来ないこともなさそうだ。 立ち上がった菊がそちらに手を伸ばす。が、僅かばかり上には届かない。 考えるように首を捻り、それから梯子に手を掛けた菊を横目に、荊棘は塔に近付き手を伸ばす。 菊より荊棘の方が背が高い(と言うか菊が小さい)。多分自分なら届くだろうと思ったそれは正しく、伸ばした手に、仔猫が恐る恐る近寄ってくる。強くなり過ぎない程度の力でその躰を掴んで、――驚いたのだろう仔猫にかぷりと噛まれるのにも構わず、そのまま降ろす。 そうして菊に差し出せば、きょとんと仔猫を受け取った菊は、……荊棘に向けて、にこりと微笑った。 「ありがとう。荊棘」 「……別に」 何を返せばいいのか解らず、結局ぶっきらぼうにそれだけを言った荊棘(つまりはこういう処が口下手の所以なのだ)に菊はもう一度笑い、ひょい、と仔猫を渡してきた。
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