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「え?」
思わず受け取った荊棘の袖を軽くつまんで、今度は其処に座るように促してくる。
やはりどうしたらいいのか解らなかったが、なんとなく逆らえない気がしてしまい、荊棘は大人しくその場に腰を下ろす。菊も続けてすぐ隣に座ると、荊棘の手の中の仔猫を撫でて、
「雷(ライ)」
と口にする。
「……飼ってるのか?」
そんなことがあるのかと思い尋ねると、菊は笑って首を振った。
「違うけど」
「ならどうして」
仔猫の名前を、と問うのに、
「うん。荊棘だから」
「は?」
……笑いながらの返答は、はっきり言ってさっぱり理解出来なかった。
菊は荊棘の疑問に直接には答えずに、横に居た三匹を順に指して言う。
「椿だから月(ツキ)。睡蓮だから陰(イン)。菊だから九鬼(クキ)」
「…………」
そして最後に、荊棘の手の中の仔猫を指して。
「だから、荊棘だから、雷(ライ)」
「…………」
言って仔猫を撫でて、それから。
その手を今度は、荊棘に触れた。
荊棘の頭を、それこそ猫の仔にするように撫でる。
「な、何を……っ」
慌てて身を引く荊棘に頓着せずに、引いた分を追いかけて、菊はやはり荊棘の頭を撫で続ける。
「菊!!」
「うん」
「何のつもりだ!」
「うん」
制止の声を上げても、菊は全く取り合わない。
ただ、うん、と繰り返し、只管に荊棘を撫でている。
止めても止まらないので仕方なくじっとして、居心地の悪さに憤死しそうになる荊棘をよそに、菊は思う存分荊棘を撫で倒し、それからにっこり微笑って、うん、と肯いた。
「…………」
最早、言葉が通じる状況ではない。と言うか絶句している荊棘には言葉を発する気力もなかった。
菊はうん、と更にもう一つ肯いて、――今度は突然、ぽてんと荊棘の背中に身を預けた。
「……っ」
動揺で硬直する荊棘に構わず、そのままの姿勢で傍らの猫たちと戯れている。
……正直、菊の行動は突飛過ぎてさっぱり理解が出来ないし、今現在どうしてこのような体勢になっているのかも解らない。
荊棘はこの場所にこれ以上何かの用事があるわけではないし、立ち上がり立ち去ってしまえばそれでいい。それでいい筈だ。……それでいい、筈なのだが。
荊棘はどうしてか、立ち上がることが出来なかった。
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