66人が本棚に入れています
本棚に追加
0
綺麗に整えられたキッチンカウンターからそのまま見えるダイニングテーブルの上。
新聞の一面に描かれているのは、でかでかとした『天才中学生現る!』という文字と、大きな写真に写るぎこちない笑みを浮かべる覇埜小だった。
覇埜小の自主出版した本が、大企業のお偉いさんに評価されて、見事新人賞という形で賞をもらったからだ。
なんでも、その内容が内容だけに、評価は妥当なものだったようだ。
覇埜小は、外へと出るために、その場を立ち去る。
冷たい廊下を少し歩くと、玄関で靴を履き、ドアを開けて空を仰ぎ見る。
綺麗な濃青色のキャンパスには、小さな星が散りばめられている。
太陽はすでに沈んだが、寒いとは思わなかった。
歩き始めれば、色々な色が見えてくる。
道の脇に灯る街路灯の明かり。
マンションや一軒家のカーテンから漏れた光。
だが、覇埜小にとってはその全てが何か違うように感じる。
明確な表現を持っているわけではない。ただ、何か違和感を感じるのだ。
光だけではない。
世の中の全てがねじ曲がって見えるのだ。
覇埜小がこの事に気がつき始めたのは、2年前__小学6年生の時の事だ。
何がおかしいのか、その違いが知りたくて、色んな事を勉強した。
物が高い所から落ちるのは、重力が働いていることを知った。
光がとても速い速度で飛んでいることを知った。
その事実を知ることが真実に近づいている気がして、勉強をし続けた。
遂には、量子力学という範囲にまで足を踏み入れ、この世のシステムをどんどんと掘り下げていった。
だが、見つけられなかった。
覇埜小の求めていた答えは見つからなかったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!