序章 after the fact 事後

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(まったく、人様の領地で暴れるのはやめてほしいものだね) 完全に締め切られたはずのドアや窓からは、金属と金属を激しくぶつけたときのような人間のとても嫌がる音が漏れだしていた。 いつもならば、『神』の就寝時間には一切の音が無い。 ヴァルハラーには風は吹かないし、虫、動物などの植物を除く生物が、『神』自身以外に存在しないからである。 それでも今の晩は、家の外では風が吹き荒れ、地鳴りが収まることはなく、甲高い金属音は、徐々に不快指数の伸びを加速させていた。 (早く撤退でもして、MPOにでも逃げ隠れしてくれればいいのに) MPOとは、彼女が最も忌み嫌い、それでいて『神』自身によって急激な成長進化をもたらしてしまっている組織である。 『神』にとって、MPO など敵対すると呼ぶほどに意識などしてはいなかったのだが、MPO は、最近になって急速に進化を遂げ、こちらの領分に対して反抗的な動きを見せるほか、その進化の種が自らであったためにほぼ強制的に意識を向けさせられた組織なのである。 相手をするのもめんどくさく、さっさと除去してしまいたいのだが、いくら『神 』とてこちらの動きを観察している敵を殺虫スプレーのようにコロコロと殺していくことはできないのだ。 いや、あると言えばあるのか。 しかし、 (急激にここの特性を変えるわけにもいかないわけだし、さて、とっとと追っ払う方法は無いのかね) という複雑な事情があるために、使うに使えない。 モチベーションを下げられ、とっととこの雑音から解放されたい一心を心の中にとどめる彼女は、同時に別の可能性についても考慮を始める。
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