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黒いアリスが手刀を振り下ろし、有馬が鉄球を走らせる。その刹那的な光景が、ひどくゆっくりに感じた。
くぐもった金属音と、肉が裂ける音が殆ど同時に聞こえ、血飛沫が舞った。
「ぐっ……」
シュウの肩に食い込む、アリスの右手。
まるで刃物のようなそれは、シュウの肩を数センチほど抉り、血に染まっていた。
が、しかし、有馬の二つの鉄球がしっかりとその手を受け止めていた。力は均衡し、アリスの手がそれ以上動くことはない。
なんとか……間に合ったか!
「致命傷は避けた、と思ってるんだろ」
しかし、アリスの声にはそれ以上に余裕があった。
「く……っ」
呻き声を上げたのは有馬。
完全に意識をシュウに持って行かれていたことに、儂は今更になって気付いた。
有馬の目の前に立つのは、もう一人のアリス。
ーーその腕は有馬の腹部を貫いていた。
口元から血を吐き出し、小さな呻き声を再び洩らす有馬。それは、どう楽観視しようと……致命傷であった。
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