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「クソ、天狗! 一旦退くぞ!! このままでは全員殺られる!」
「しかし! 刀は!?」
“村正”を確保しないわけには、撤退すら叶わない。このまま逃亡を図れば、“村正”による致命傷によって、有馬やシュウ、“村正”によって斬られたすべての人間が……漏れなく全員死ぬことになる。
“村正”が落ちていた方向に視線を向けると、すでにそこにはシュウがいた。
「確保済みだ!!」
「ーーよくやったッ!!」
シュウが走り出そうとする。
「ふん、馬鹿なのか。お前ら」
「シュウ……ッ!!」
シュウに向け放たれたのは無数の針。
すぐに有馬が鉄球を走らせるが、ほんの数秒の差で間に合わない。
いくつかの鉄球が針を叩き落としたが、残りのいくつかはシュウの全身を貫いた。
「僕のこの能力を前に、“逃げる”という選択肢は存在しない。有馬、お前なら分かるだろ。僕がどれほど追撃戦を得意としているかを。どれだけの人間をこの力で追い詰めたかを」
不覚だった。
真正面から対峙している分には、あの針の対処はどうにかなっていた。
それは、有馬の鉄球が相性的に優れていることなどのアドバンテージがあって、ギリギリのところで対応していたに過ぎない。
しかし、一度奴から目を背けばその均衡は簡単に崩れる。
奴に背を向けることそのものがナンセンスだったのだ。
針に貫かれ倒れ込んだシュウの元に、もう一人の黒いアリスがすぐに駆け寄った。
「これで……王手、でいいんだよねぇ?」
狂気に満ちた目でシュウを見下ろす。いや、正確にはシュウが手にする“村正”か。
「ぜっ……たたいに……はな、なすもんか、よ」
針による体内時間の激しい乱れのせいか、上手く喋れていなかったが、シュウの意志は十分に伝わるものだった。
「構わない、殺せ」
本体とも言えるアリスが冷徹に言った。
「有馬!! させるな!!」
「わかっている!!」
ここでシュウが殺られれば、この戦いの均衡は本当の意味で崩れる。そもそも“村正”が奪われれば、その時点でゲームオーバーだ。
何としても、阻止せねばならん!!
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