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頭が真っ白になる。
手持ちのカードは何一つとして残っていなかった。
アリスは腹部を貫通する右腕を躊躇いもなく引き抜くと、崩れ落ちる有馬に目をやることなく、シュウのもとへ歩みを進めた。
「さ、させるか……ッ!!」
遅れて走り出したが、いつの間に配置していたのかも分からぬ光の針が降り注ぎ、儂の両手両足を貫いた。
「そこでこの茶番の終わりをゆっくり見ていなよ」
アリスのその言葉を最後に、時間の感覚が無秩序に乱れ、視界がゆっくりと流れ始める。
「や、め……ろ」
アリスはシュウを蹴り飛ばすと、その腕から溢れた抜き身の刀を拾い上げた。
その瞬間だった。
ーーバチィッ
電流が跳ねる。
アリスの体が一瞬震え、そのまま呆気なく地に倒れる。ふと蹴り飛ばされたシュウのほうに目をやると、息も絶え絶えの様子ながら、口元に懸命に笑みを浮かべていた。
「……天狗……お前が、殺れ」
スローモーションの世界が、次第に解けていく。だんだんと、本来の時間を取り戻す世界の中で、シュウがそう言ったのを確かに聞いた。
「あ、ああ……」
情けない声を上げ、黒いアリスの姿が消滅していく。
アリスは気絶していた。
あれほどの強大な力を持った男が、こうも簡単に地に伏した。
シュウは賭けていた。
アリス自身が、シュウに近付きあの刀を手にすることを。
おそらく、あの電撃の正体は、“帯電”。
シュウはあの刀を抱えながら、残る全ての力を振り絞り、大量の電気をあの刀に注いでいたのだ。
黒いアリスが刀を奪っていても、その前にシュウが殺されていても、この電気がアリス本体を襲うことはなかったはずだ。
有馬が黒いアリスの攻撃をシュウから守り、さらにはアリスが油断しなければ絶対にこんなことは起こりえなかった。
あまりにも味気ない不意打ちに見えるが、これは一縷の望みを、二人が繋げた賜物なのだ。
あとは儂が……この男に刀を振り下ろす。たったそれだけのこと。
儂はあちこちにガタがきている身体に鞭を打ち、アリスのすぐ傍まで何とか歩み寄った。
その手元で光る村正。
こんな玩具のために、何人もの人間が地獄を味わった。
ここで全て、断ち切る。
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