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子供達の笑い声が聞こえる。その中に一人、子供の中にまじり、かくれんぼをしている男がいた。
「次は沖田さんの番!途中でいなくなったらだめだよ!!」
「うん。わかった。」
その男は特徴のある明るい声で言った。
「数えるよ。一、二、三、四、五、六…」
その時、竹刀を持った男が、走ってきた。
「沖田先生!土方さんが呼んでます。早く、道場へ…」
沖田はがっかりした顔をした。
「あ~あ…また、しごかれるなあ…」
隠れていた女の子がでてきた。
沖田は笑いながら、
「あ!お千代ちゃん見つけた!!」
と言った。
「む~…」
怒っているようだ。
沖田が宥めるように、
「御免ね…お千代ちゃん…明日は絶対に遊んであげるから…」
と言うと、女の子は、ぱっと日が射したように笑い、
「本当?!嬉しい!!約束だよ!指切りして!!」
二人は小指を絡ませ、指切りした。
「それじゃ、また明日ね!」
手を振りながら、沖田は言った。
道場に行くと、赤い面紐の男が、誰かとやり合っていた。
「オーーッ!!」
「イエーーッ!!!」と気合いを発する。赤い面紐の男は、どこの流派にも似つかない、変わった動きをした。相手の男は天然理心流だ。
赤い面紐の男の竹刀が右へずれ、相手に胴を打ち込んだ。
審判が、
「土方、胴あり!一本!!」
と叫んだ。
赤い面紐の男は、土方歳三といった。多摩の大農家の息子で、家伝の石田散薬を売りながら、修行をしていた。
次に、歳三の相手をしている男が、面を打った。
「近藤、面あり!一本!!」
審判が叫んだ。
その男は、近藤勇といい、この道場の主だった。
「歳…腕を上げたな…」
喘ぎながら、近藤が言った。
「…近藤さんこそ…腕を上げたな…」
総司が言いにくそうに、
「お呼びでしょうか?」
と言った。
すると土方が、
「お呼びですか?じゃねェ!サボりやがって!!」
と、多摩なまりで言う。
総司は素直に
「すいません。真面目にやります。」
と言った。
土方は、
「サボった分、きっちりしごいてやるから、覚悟しとけ!」
と笑いながら言った。
総司は防具を付け、竹刀を握り、構えた。平星眼だ。
歳三も平星眼に構えた。彼のは少し、癖があり、右寄りになっている。左が、がら空きだ。
審判の井上源三郎が叫んだ。
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