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いまここでぼくが死んでも、きっと誰も哀しまない。その自信が、ぼくにあるだけの話し。
――ぼくの右手には銃がある。誰かを殺す為の道具だ。引き金を引くのはこのぼくだ。
といっても、そんな鉄塊が都合良く収まっていてくれる道理は、もちろん無い。なのであくまで、これは比喩表現として受け取ってくれると幸いだ。
それ相応のものがあるということは、きちんと伝えておきたい。例えこれがちょっとした、思考と想起の両面でしか語られない物語としても、注意書きや脚注くらい読んでおいても損は無い。
だったらこの際だ。容姿につていまは語らないでおこう。きのう痛めた膝の裏筋が、少しばかり我鳴りを上げている今のぼくは、かなり情けのない格好でありそうだし。
歩くのも正直、しんどいわけだ。なのでぼくは一人、しがないカフェテリアにて煙草をふかしている始末。しかも昼間から。
まるでヒモのような有り様だ。他人に誇れるものでも無い。
とはいえ、一応ぼくは軍人なのだ。
――いや失礼、〝元〟軍人だ。
ひとに誇れるものなんてこれくらいしか無いけれど、無かったのに、それさえぼくの手の平から零れ落ちていく。敵対国に機密情報を持って亡命すれば、そんなのは当たり前だとしても、世の中の無常というものを感じざるを得ない。
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