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『失礼します』と、一応、礼儀正しく頭を下げながら中へと入ると、太一の身体に緊張が走った。
業務用のデスクが一つ置かれ、その前にはガラステーブルを挟む形で、ソファーが向かい合わせに設置されている。
実際に見たことはないが、まるでどこかの社長室のようだ。
だが、身体を強張らせたのは、そんな部屋に入ったからではない。
目の前に立つ男と目があったとき、蛇に睨まれた蛙のように、動けなくなったのである。
太めのストライプが入った黒いスーツに、少し長めの髪をすべて後ろに流したヘアスタイル。
ただでさえ、威圧的な格好なのに加えて、ややつり上がったキツネ目に睨まれれば、嫌でも緊張してしまう。
「ようこそ黒野派遣事務所へ」
そう言って、男はキツネ目を細めて口角をつり上げた。
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