―押せ―

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       《1》 それは、灰色のブロック塀に囲まれて存在していた。 無機質なコンクリートで出来た、二階建ての家。一見、ボロアパートのようにも見える。 煤汚れたねずみ色の扉には、黒くて小さな看板が取り付けられていた。 "黒野派遣事務所" ここで間違いないな... なるほど、これでは気がつかないはずだ。 普段なら、絶対に素通りしていただろう。 それに、何て例えたらいいのか解らないが...この建物には、どことなく覇気がない。 生活感もなく、人が住んでいるようにも思えなかった。 なんとも薄気味悪い趣に、一瞬戸惑いはあったが、太一は唾を飲み込みドアノブを捻った。 .
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