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「やめてよ!なにするの!」
あたしは激しく燃え上がる絵本に飛び付いた。
久志はあたしを押さえた。
絵本は炎をあげてドンドン燃えていく。
「お母さんの絵本・・・。」
絵本は薄かったせいかすぐ燃え切ってしまった。
あたしは愕然として膝をついて座り込んだ。
「ひどいよ、久志。あたしだって思い出の一冊だったんだよ。久志に何の過去があるか知らないけどこんなことするなんてヒドイよ。」
涙ぐみながら訴えるあたしに久志も涙を流した。
「・・・君の綺麗な思い出を焼いたことは悪いと思ってる。でも俺にはこの絵本をこの世から一生かけてでも抹消しなければならない理由があるんだ。」
「そんなの知らない!何も話してくれないくせに!勝手なこと言わないで!」
久志は絵本の灰を踏みにじった。
「偽物だ。こんな絵本。あんなやつが描いた最低な絵本さ。」
「あんなやつって・・・盗作した人?」
「・・・この絵本の原作者は俺の弟なんだ。」
「えっ!」
久志は腰を下ろした。
「弟は小さい頃から話を書くのが好きでストーリーを書き溜めては俺や母さんや親父に見せてた。
親父や母さんは弟の才能を伸ばすことに夢中になってた。
とくにこれといって特技をもってなかった俺は弟に嫉妬してた。
そして
親父の知り合いのおじさんに弟の作品を見せて欲しいと頼まれて
『あいのくに』が書いてあるノートを渡してしまったんだ。
まさか盗作されるなんて思わなかったんだ。」
久志は拳に力をいれた。
「そしてあの例の事件が起こった・・・・」
「そう、出版社に勤めてたあいつは弟のストーリーに着色して出版した。
『あいのくに』は
たちまち小学校に置かれるようになり、いろんな賞を受賞した。
親父は半狂乱になり止める母さんの手を振り払い、ナイフを持ってあいつの家へ行った。
そして・・・」
久志は頭を抑えた。
「あの時、俺がノートを渡してしまったばっかりに。」
「・・・・弟さんは今、どうしてるの?」
久志は目をつむり、
また頭を抑えた。
「自殺した。」
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