手のひらの女神

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 ニナは、ずっと嘆いている。  アベルはそのことに、心を痛めていた。  ニナの体が封じた絶大な力を求める魔族によって、彼女の遺体は安置所から持ち去られている。  その底なしの強欲さは、アベル自身の錬金術の力を求めてすり寄ってきた幾多の人間たちと似ていた。  長い時の流れの中で悲しみ続けるニナの魂を少しでも癒したくて、アベルはニナが聖女であるために心のうちに封じた彼女の本当の姿を見出し、彫刻として具現化させようとしていた。 「ニナ。君の魂の叫びを、僕が世界に残していくからね」  心をまっさらな無にしてニナの魂をありのまま受け止め、それを形にする。  手のひらに宿る女神のために、アベルは今日も一人、錬金彫刻の修行に励むのだった。 (完) .
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