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二人だけでひっそりと、と思っていたのだが、主治医や看護師さん達には気付かれていたみたいで、ささやかながらお祝いをしてくれた。
華やかな門出ではなかったかもしれないが、周りの優しい人達に祝福された最高の門出だ。
いつもと変わらない日々を過ごすうちに、すっかり歳を取った。
数年前に定年を迎え、昔から悪かった持病が悪化した為、彼女のいるこの病院へ入院をしている。
窓から見える景色もすっかり変わった。
最近、国に対しある訴えを続けている。
彼女の珍しい症状を説明し、俺がいなくなった後も国が面倒を見て欲しいとの訴えだ。
彼女は若いまま眠り続けている。
俺がいない世界に生きて、彼女はどう思うか?
わからない、わからないが俺は彼女にはどんな形であれ生きていて欲しい。
更に月日が経ち、すっかり老人の体になった俺は、ほとんどをベッドの上で過ごすようになっていた。
人は俺を憐れむだろうか?
一生を無駄にしたと思うだろうか?
彼女の意識は結局回復しなかった。
彼女に意識があったらなんて言っていただろうか?
私の為に…って泣くかな?
君の為には、俺の為にでもあるんだよって、いつか君が俺と同じ所に来たら教えてあげようと思っている。
それに、君はいつも大事な所でちゃんと気持ちを伝えてくれていたじゃないか。俺はずっと一人だった訳じゃないんだよ。
彼女の人差し指にはあの時にはめた指輪が変わらず輝いている。
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