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とある寒村。
地図に辛うじて名前が乗る程の小さなその村には、何も無い。
あるのは、ただ一本だけの大きな紅葉の木。
村から少し離れた小さな丘の上にあるこの紅葉は、赤くならない紅葉として村人には知られていました。
夏が過ぎ、秋が来ても赤くならない。
周りの山々は秋には紅や黄色に染まっているというのに、その一本だけ。
蒼々とした葉を残したまま、毎年晩秋にその葉を散らしていました。
木の大きさからして、見事に紅に染まれば大層美しいだろう、という村人の希望をよそに、毎年蒼いままでした。
そして、もう一つ不思議な事がこの紅葉にはありました。
村人の誰もが気付いていませんが、この紅葉には精霊が憑いていたのです。
この木の葉が赤くなったら、こんな風に紅く染まるのではないかと思えるような真っ赤な着物を着た、少女の精霊が。
毎日紅葉の上から村を見下ろす少女は、いつもつまらなそうな顔をしていました。
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