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最後にこの紅葉を訪れたのは、旅の途中に偶然この村に立ち寄った、二十歳前の少年でした。
完全に諦めていた村人からこの紅葉の話を聞き、物珍しさから見てみたい、と思ったのです。
少年は紅葉の根元に腰をかけ、村で貰った梨を美味しそうに頬張りました。
しばらくして、食べ終わってから上を向き、いきなりこんな事を言いました。
「お前さ、こんなに綺麗な枝を沢山持ってるのに、なんで紅くならないんだ? 俺は、綺麗に紅く染まったのを見てみたいと思う」
少女は、純粋に驚きました。
少年から少女は見えるはずがないのに、少年は少女の居る場所を見ていたからです。
そして、それ以上に、初めて言われた言葉に少女は知らない感覚に熱くなっていました。
待ち焦がれていたのに、よく知らなかったから。
紅くなったら来年また来るよ、という言葉を残して去る少年を少女は、知らない感覚に身を委ねるように頬を薄く染めながら見送りました。
そして、次の年の秋。
あの紅葉の大木は――――
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