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そこには、この辺りに棲息する小動物のキツネリスの子供が無残な姿で横たわっていた。 目には光を宿しておらず、絶命しているのが一目で分かった。 更に恐ろしかったのはその腹元が切り裂かれ、血にまみれた内臓の類が乱暴に取り出されていたことである。 普段あまり見ないグロテスクな光景に思わず顔が引きつる。 「ひっ!」 男は短い悲鳴を発し、その場に尻餅をついた。 喉の奥にすっぱいものが込み上げ、嘔吐感に目眩がする。 意識せずとも口元を手で押さえていた。 そして見上げるように子供に視線を移すと、恐怖は更に倍増した。 まるで猫のような縦長の瞳孔を備えた大きな瞳がぎょろりと男を睨む。 顔立ちは人間なのに、瞳だけは異常なまでに大きかった。 頭部にはピンと三角に立った耳が物音を窺うようにヒクヒクと動く。 それに連動して動く小さな鼻。 歪んだ口元から真っ赤な舌を出し、ペロペロと口の周りを嘗めまわす。 その胸元や両手はキツネリスの血だろうか、真っ赤に染まっていて、右手(もしくは右前足と言うべきか)は何かを引っ掻いたように血の痕がべっとりと貼りついていた。 人間の子供だと思っていた自分が嘆かわしい。 猫、もしくはトラといった動物と一体化した人間。 いや、人間とは呼べない恐ろしい子供の光景が、男の目に焼きついた。
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