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日本の都内某所。そこの誰にも寄り付かない場所、廃墟に一風変わった男性が住んでいる。
男性は満月を正面に、学校で使用されている木製の椅子に腰掛け、顔面に付けているガスマスクの位置を整えていた。
「うむ。今日も平和なり」
男性はそう呟くと椅子から立ち上がり、下に降りようと歩みだした。
しかし、その歩みは止められることになる。 男性の目の前の月が真っ二つに避け、そこから長い金髪と紫色のドレスが特徴の美しい女性が現れた。
「何者だ。我の行くてを阻もうというのなら容赦はせんぞ」
突然現れた女性に近づいていく。
威圧的に。高圧的に。高らかに問う。
「まぁ落ち着きなさい。私は貴方達に助けてもらいたいのよ。義偽(ヨシギ)に……」
「言葉を慎んでもらおうか。貴様は我らを愚弄する気か」
固く握りしめた拳を女性の目の前に出す。拳には包帯が巻かれており、本来白いはずのそれは黒く滲んでいた。
「問おう。貴様は何者だ」
「……賢者よ。妖怪の」
「問おう。貴様の目的は何だ」
「助けて欲しい、世界があるの」
「問おう。貴様は我らの事を知っているのか」
「いいえ。ただ……強いやつが必要なのよ」
女性はそれだけを言って口を閉じ、下を向いた。
「ふん。我らを理解せぬ者に協力する義理はない。消え失せろ、妖怪が」
義偽はそう言葉を吐き捨てると、女性の横を通り過ぎようとする。義偽が女性の真横に来た瞬間────
「なら力付くで連れて行くわ」
そこから女性の行動は速かった。
女性は体を半回転させ、義偽の後頭部を掴み地面に叩きつける。そして、追い討ちをかけるように跨がり、顔面が地面に埋まっている 義偽の後頭部をひたすら殴り始めた。
ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ。
女性の白い手袋が徐々に赤く染まっていくが、降りおろす拳を休めない。
「はぁ……はぁ……。少し手荒になったけど、これなら連れて行けるわね」
そう言うと、駄目おしと言わんばかりに右拳を降り下ろした。
「なっ!?」
しかし、その右拳は包帯が巻かれた手に止められた。女性は信じられないか、目を見開いて手の出所を探し始める。
だが、女性は分かっていた。その手が義偽の手だと。しかし、信じられなかったのだ。半殺しの域を越えた攻撃に耐え、意識があることに。
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