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「くそっ!? どうなっ──」
女性の言葉が途切れる。
何故か? 答えは単純明快。投げ飛ばされたからだ。
「えっ……?」
女性が闇夜に反する金髪をたなびかせ、重力に逆らいながら宙を舞う。
しかし、それも束の間。
次の瞬間には、固いコンクリートの地面に背中からたたきつけられ、肺の空気が一瞬にして吐き出された。
痛みに耐え、半開きになっている瞳で辺りを見渡す。目の前には先程まで殴られていた義偽が平然と立っていた。
「貴様の愚行。我らに対する挑戦状と受ける。我が【正義】の礎となってもらう」
何故か無傷のガスマスクの位置をきちんと元に戻し、仰向けに倒れている女性にまたがった。
「死ぬがいい」
黒い拳が降り下ろされる。
「ちっ!!」
女性は軽く舌打ちし、顔の目の前に裂け目を創りだす。すると、そこから一方通行の標識が飛び出てきた。
標識は義偽の拳目掛けて飛ぶ。
このままでは拳が標識に正面衝突してしまうが、ガスマスクで見えない義偽の表情は変わらなかった。
彼の身体能力なら標識を避けられるだろう。それほど彼の身体能力は高く、人のそれを軽く越えている。
しかし、何故彼が拳をおさめないのか?
理由は簡単だ。
彼は殺すと言ったら必ず殺す。決して考えを曲げず、遠回りしない。自分が信じたものを達成するまで信念を変えない。
彼はそんな人間なのだ。
彼を知る人間は皆、口を揃えて言う。【悪】を滅する風紀委員長。 彼こそが【正義】の具現者と。
「無駄だ」
ドグシャ! と人を殺せるだけの速度と質量を持っている標識が、義偽の何も飾らない拳に負けた。
標識が出てきた位置よりも奥まで戻り、その為義偽の拳も裂け目に入る。
「もらったわ!!」
女性の言葉に呼応するかのように裂け目が広がり、義偽を包み込む。
「むっ」
そして、義偽の抵抗する間を与えずに裂け目は彼を覆いつくした。
「招待させるわ。【私達】の楽園へ」
裂け目が彼を包み、消えた。
残ったのは仰向けに倒れている女性だけになった。
「はぁ……はぁ……。規格外もいいところだわ。でも ……」
そこまで言うと女性は辺りをキョロキョロと見渡し始めた。しかし、辺りには誰もおらず、めり込んだ地面とその為にできた破片しかない。
「気のせいかしら……?」
「どうされました? 紫様」
突如、【紫(ユカリ)】と呼ばれた女性の後ろに、金色の九本の尻尾が印象的な女性が現れた。
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