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男は鬱蒼とした森の、木の陰に倒れていた。茂りに茂った草に囲われるように横たわっている。 柔らかく草を撫でるようにふく風が 、男の髪を小さく揺らす。男はゆっくりと体を起こすと、ずいぶんマイペースな動作で辺りを見回す。マイペースな動きではあるのだが、それはどこかぎこちない。 なんだか 、見知らぬ場所に突然放り込まれたかのような。 見渡すといっても、なんということもないただの森。何の変てつもないただの木々が何万本という単位で密集した場所。見回しても結局見えるのは、木々ばかりだった 。 見渡し終えてから、一息つく。男の頭には疑問符が浮かんでいるようだ。 「どこだ? ここ」 なにがあったのかと、そう呟く 。予想通り、男は知らない場所で倒れていたらしいが大して驚きもせず男は立ち上がった。 スラリとした体格だが大きくはない。 男がまたもゆっくりとした動作で木陰から出ると 、影で隠れていたその顔が木漏れ日によってあらわになる。 すっきりとした印象。全体的に整ってはいる。一見すれば普通の青年だ。顔面の右半分に施された――その禍々しいタトゥーと、森の奥を見据える奈落のように深く暗い、光のない瞳が、それをそう感じさせない。そう感じることができない。 「なんだこれ。どこだここ。どう考えてもワシの愛する廃墟じゃねえぞ」 飄々とした風にそう言う男は、何を考えているのかニヤニヤと顔を歪ませる。 「キヒヒ。なんか楽しいことになってんじゃねえか」 スッとポケットに入った何かを手で確認し――走り出す前に構えることもなく、力を溜めることもなく、 男は軽く走り出した。 そのはずだった。 走り出した地面が大きくえぐれ、男は消えていた。それはおおよそ人間ではあり得ない、人間が走るという行為を行っている限りあり得ないスピードだった。
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