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「めでたし、めでたし――」
初めて――――まっすぐに、彼が子供たちへと目を向ける。それは、物語の終わり。
胸の位置にあった両手を降ろし、改めて、右手を胸に当てる。そして左手で黒いシルクハットを取ってから、彼がたおやかにお辞儀した。
ようやくその存在に気がついたような子供たちが、ある一人の拍手に釣られるようにして手を打ち始めた。人形と見紛うほどに丹精な笑みをした、シルクハットの――十五か六といった容姿の少年は、ありがとう、ありがとう、とそれぞれの子供たちへと返すようにお辞儀する。
「すっごいや! お兄さん、すっごく面白かった!」
「そう? それは良かった」
代わる代わるに、男の子たちがシルクハットの少年へと感激の言葉を向けていた。ある少女は、頬を赤くして彼を見つめてさえいて……。
一方で、劇の――人形劇の――舞台が置かれた場所へ近寄ってきた女の子が、その少年とは別の人物へと、声をかけていた。人の手の加わった芝生が、躊躇いがちに踏まれている。
「お姉さんは、帽子のお兄さんの『じょしゅ』なの?」
劇が終われば、ほとんどの子供が少年へと押しかける。あらまぁ、まさか私のところへ来てくれるなんて――と思って、「じょしゅなの?」と聞かれた彼女は、殊更に、面映(おもは)ゆげに笑っていた。
「ええ、そうなの。前にね、あのお兄さんの劇を見て感激してしまって……」
相手が子供だからか、普段とは違う声色を彼女も演じてみた。
「ふふ、それからお手伝いをさせてもらっているの――って、あれ?」
当の相手はといえば、ふぅん、と話もそっちのけで、興味深げに木造りの家に目を奪われていた。あらら、と苦笑いする少女の傍らで、シルクハットが手を打っていた。
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