【糸繰り人形の旅】

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「さ、もうそろそろお昼の時間だ。お腹も空いたろう? 僕たちの人形劇も、今日はこれでお終い。親御さんが心配する前に、おうちへお帰り?」  幾人かの子は、後ろ髪を引かれながらも立ち去ろうとしていた。ただ、興奮も冷めやらぬのか、今では女の子たちもが、また見たいとせがんでしまう始末でいる。ただ、そんなことを続ける折に、いつしか少年の顔が困り果てたものに見えるようになったのか、子供たちも「ごめんね」を繰り返す少年にせっつくのを諦め始めていた。 「ごめんね」  改めて、少女の肩に手を置く。シルクハットの少年は、彼らの背をさわりと撫でるように押した。そろ、と振り返ったのは、最後に少年が背中に触れた女の子。もじもじと、何かを言いたげにしていたから。にこり――とシルクハットは目が糸に見えるほどにして、毒気のない笑顔で見送った。 「あっ――」 恥ずかしさに負けて、女の子は真っ赤な顔をして走り去っていった。 他の子供達の帰り足は重い。目に見えて肩を落とすものだから、振り返り、歩いては振り返りしていた彼らへと「きっとまた来るよ」と、シルクハットを高々と大きく振って、少年は子供たちを家へと帰すのだった。 「上々だ。美談のウケがいいのは好ましい」 開け広げていた革のアタッシュケースには、細々としたコインが、普段よりも多めに入っていた。愛らしい小金たちに、彼は笑う。 「好ましい――が、少し、目が回った」 鞄を中心に、円形に拓けた広場からは、方々へと続く八つほどの通りが結ばれている。三々五々に散っていった子供たちを送るために、少年は繰る繰ると、それこそ人形のように回って帽子を振っていた。
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