【レイティと青い鳥】

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   すっと、大きな手で家の外装は取り払われ、とうとう場面は家の中――そして大男とのご対面。泣き出す女の子まで出る始末で、手に汗握っていた男の子はといえば、それに水を差されながらも、その展開に夢中だった。  のめり込む、のめり込む。現実が、仮想に取って代わられる。お遣いの少年に、男の子たちの義憤が映される。それは、喉から飛び出た言葉。 『その鳥を、離せ!』  細く、けれど勇ましく、しかしやはり、少しばかりそれは震えていて。少年の勇気に巻き込まれた観客の男の子たちは、興奮に立ち上がる。女の子たちもが、恐れながらも、けれど大男へと立ち向かう勇敢な少年に声を泣り止ませる。 『何だお前は。邪魔なやつだ、お前から食ってやる!』  野太く低く。変(か)わる変(が)わるに、声の応酬。手元では男が動く。大きな鳥を逃がさないように両手で掴んだまま、大男は少年へと、これまた大きな口を開け広げる。 「大男は腰を曲げ、その大きな大きな、周りがヒゲだらけの口を開けてレイティへと襲いかかってきました」  握り締められた青い鳥は、突然現れた小さな勇者に驚嘆しながらも、我が身がことを忘れたように、少年を案じて高らかに啼いた。それは、悲鳴にも聞こえたか。女の子はまたも両手で顔を覆ってしまう。けれど、目を見開き続けていた男の子は違っていた。 「やった、今だ!」  聞こえてきたのは幼き歓喜。そして同時にあがった、野太い喚きの声。 『うがぁぁぁぁ!』  大きすぎた大男の口には、少年に抱えられていた面長のパンが突き刺さっている。恐怖を前に、けれど一歩踏み出し、その手を前へと差し出だした少年が活路を切り拓いた。 「パンに喉を塞がれた大男は、あまりの苦しさに思わず青い鳥を手放していました」  少年は入ってきた扉へ急ぐ。手を仰いで鳥を誘う。 『逃げよう!』
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