-1日目-

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 学校の近くに、どうやって経営が成り立っているのかと思うほどいつも空いている喫茶店がある。大は、その店に香と一緒に入った。  相変わらず客のいない店内は、逆にちょっとした秘密を話すにはうってつけだ。香にもそれが理解出来ていたので、大人しく奥の2人席に向かい合う。  2人ともアイスコーヒーを頼む。オーダーを終えてすぐ、大は黒い携帯電話を取り出し、数度操作した後で香に見せて来た。 「……全く同じですか?」  画面に出ているのは2通目。名前のリスト。  香も同じく、スカイブルーの携帯を開いて2通目を開いて見せる。 「一緒、ですね」  2つ並んだ携帯に並ぶ文字は、一字一句同じようだった。 「何なんでしょう、これ」 「……さあ。自分たちだけならともかく、全く接点のない瀬川さんにも届いているというのは妙ですね」  真剣に携帯を覗き込んでいた大の言葉に、香は手を止めた。……自分『たち』? 「リストの名前で、自分以外に心当たる名前があるんですか?」 「ええ、佐々木恭太郎くんです。近所に住んでて、親同士が仲良くて、頼まれて家庭教師みたいなことをしているもので。さっき電話してみたんですけど、同じ文面らしきものが彼の携帯にも届いているそうです。……瀬川さんは?」 「新島今日子は私の姉です。結婚して苗字が変わっているんですけど」 「……そうなんですか」 「それと……これはまだ未確定ですけど、高山三郎さんは、姉の近所に住む人かも知れないと、姉が」  全ての名前は芋づる式に誰かにつながっているのか? 送り主は現実の自分たちの知り合いであり、狙って送りつけて来た? 「……ちょっと恭太郎くんに電話していいですか」 「あ、はい」  リストの名前に心当たりがないか尋ねるつもりなのだろう。大は携帯を手に戻して話し始める。  会話の断片を聞いているだけでも、その考えが当たっていることが判った。話を終えた大は一瞬こめかみに指を押し当てて考え込んでいる。 「やっぱり、誰かいましたか」 「野崎享くんは、恭太郎くんのクラスメイトのお兄さんだそうです。恭太郎くんも気になって電話で確認してくれて──やっぱり、その享くんにも届いていると」  何なんだろうこれは。聞けば顔がすぐ浮かぶ知り合いではなく、ちょっと探し回らないと見つけられない糸をたぐってつながる名前のリスト。  ゲームの前に身辺整理。その言葉が急に不気味な現実感をもって香に迫って来る。
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