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星が、弱々しく輝いている。
建ち並ぶ木製のバラックは、ほとんど倒壊寸前にも思えるもので、少し先の区域と比べれば人の住む場所とはとても思えない。
阿片の影響だろう。
虚ろな瞳を空に向ける男が、そこらじゅうの道端に倒れている。
竜胆は覆面の下で表情を曇らせ、踏みかけた人間の死体を避けるように歩いた。
尾行は三人。
いずれも英語を喋っていたが、その訛りはイギリス人には無いものだった。
この貧民街の路地を使い撒いたはずだが、まとわりつくような気配はまだ消えていない。
足を速めながら、竜胆は懐に手を忍ばせた。
男三人を相手にしても敗けるとは思っていないが、無駄な闘いをするつもりは無い。人を傷付ける事も、好きではなかった。
まとわりつくような気配は、結局租界に入るまで消えなかった。
衛兵に身分証を見せて門を潜った時、それまで感じていた気配は綺麗に消えていた。
上海租界。
そこは、まるで別世界だった。
煉瓦造りの幾何学的な建物が建ち並び、色とりどりのビードロをしつらえた窓からは煌々とした光が溢れている。
夜にもかかわらず石畳の大通りには紳士淑女が溢れ、 空には軽やかな音色が踊っていた。
その中をなるべく気配を消しながら、竜胆は大通りの隅を歩いた。
外の世界とは大違いだった。
貧民街に飢餓や麻薬、殺人が溢れていることを考えれば、この租界内は楽園にも思える。
租界の中で犯罪を犯そうものならば、即座に列強の憲兵が大挙してくる。そして、弁明など認められずに射殺される。
二つ目の十字路を右に曲がり、竜胆は寂れた喫茶店のドアを開けた。
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