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胸に抱えていたバッグは床に音をたてて落ちて、私は引き寄せられるまま主任の前に腰をおろす。
「しゅ、にん…?」
主任の取る行動が理解できない上に、こんなに近くに主任がいるせいで心臓は痛いぐらいに早く強く拍動する。
「 …慰めてもらえるなら、誰でもよかった?」
「えっ…?」
間近で私を見下ろす主任の瞳が冷たくなっていく。
「俺じゃなくてもよかった?」
「ちがっ…、」
そんなことないっ、誰でもいいなんて、主任以外なんて考えたこともないっ。
私があんなことを言ったのも、涙を流したのも、こんなに苦しいのも、心がちぎれそうに切ないのも全部…全部、相手が主任だから。
私の中はこんなにもあなたで溢れているのにっ…。
伝えたい想いは沢山あるのに、言葉にはならなくて首を横に振って否定することしかできかった。
「…ごめん。」
泣きそうな顔をした私を見ながら、主任はバツが悪そうに微笑む。
それは、まるで子供がいたずらしてしまった後のような顔。
「岬さん見てると大人気なく意地悪したくなっちゃって。」
主任のその言葉と表情を見て、ようやく気づかされる。
……そういうことか。
主任の口調がいつもと違うのも、こんな風に2人の距離が近いのも全部…、
「主任はただ…、私のことからかってた、だけなんですね?」
それなのに、私が勝手に勘違いして…。
「すみません、私あんまりそういうのに慣れてなくて…。
すぐに間に、受けっちゃって… 。やだ、な…。ほんと、すみません。」
最後の語尾は情けないことに、涙で震えた声になった。
冗談のひとつもわからずに泣いても主任に呆れられるだけなのに、主任の言葉に意味があるんだって勝手に思いこんで…。
これ以上、自分の勘違いで主任を困らせるわけにはいかず、下を向きグっと涙を堪える。
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