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「…からかってなんかない。」
主任の低い声が頭上で響く。
…からかって、ない?
その言葉の意味がわからず、涙で滲んだ瞳で主任を見上げる。
「だって、さっきはわざと意地悪な言い方したって…、」
「確かに、さっきはわざと意地悪な言い方しちゃったけど、俺は悪ふざけで岬さんにこんなことしてるわけじゃない。」
主任が真っ直ぐに私の瞳を捉えて言う。
それなら、主任の今までの言葉や行動にはどんな意味が…?
いくら考えてもわからず、下を向き主任から視線を逸らす。
そんな私の後頭部にスっと手を置き、俯いていた私の顔をグっと上にむかせた。
そうされて、私が見たのはいつもの優しい主任ではなく、今まで見たことがないぐらい熱い眼差しで私を見つめる主任だった。
どうしてそんな顔…、
わからない…、
こんなことされたら…また、私勘違いしてしまう。
…こんなふうにされることが特別だって。
「もう…やめて、ください…。」
自分に都合のいい考えを振り払うために、絞り出した声は今にも消えてなくなってしまいそうなほど震えていた。
主任の胸に手を置き、2人の距離をとろうとしたのに主任の体はビクともしなかった。
「ちゃんと俺を見て。」
離れることができないなら…せめて目だけ逸らそうとした私を、主任は許してはくれなかった。
「…こんなことされたら、私…、主任の幸せを願うことすらできなくなる。」
今まで何とか堪えていた涙か頬を伝い溢れ落ちていく。
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