281人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
「…俺の幸せ?」
そう聞き返した主任の表情は、驚きと戸惑いを隠せずにいた。
これ以上主任を困らせるわけにはいかない…。
そう思うのに、もう言葉を止めることはできなかった。
「…主任には心に決めた人がいるってわかってるのに、わたし…、私っ…、自分の気持ちを止められないっ。
こんな風に2人でいられることが、不謹慎だけど嬉しくて、仕方ないんですっ。」
今まで怖くて逸らしていた視線を合わせる。
眼鏡の奥の主任の瞳の中には、情けない顔をした自分が映る。
目の前にいる人が欲しくて欲しくて仕方ないのに、勇気がなくて何もできずに立ち止まっていた自分。
だけど、もう逃げない。
この想いを伝えたい。
「私…自分でどうしようもないくらいっ、主任が好き、大好きなんですっ。」
「……」
気持ちを告げた後、私の頭に添えられていた手がスっと離れていく。
「…まいったな。」
主任の口からこぼれ落ちた言葉。
グっと目を閉じ、その言葉を受け入れる。
…わかっていたこと。
泣いちゃダメ…。
気持ちを伝えないで終わるより、伝えられたんだから、よかった。
そう思うのに、涙がとめどなく溢れていく。
その時、目尻に柔らかい感触が広がり、涙が掬いとられていく。
それが主任の唇だと気づいたのは、主任がギュッと私を腕の中に包みこんだ後だった。
最初のコメントを投稿しよう!