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「それにしても心地いい風だね。」
いつの間にか私の隣まで移動してきていた主任が、窓の格子に手を置き目を閉じて風を感じていた。
無造作にまくりあげられたワイシャツの袖から覗く腕は想像以上に逞しく、閉じられた切れ長な瞳が、風で揺れる前髪の隙間から見え、私は生まれて初めて…男性に色気を感じてしまった。
…女性にモテるのがわかる気がする。
自分の心臓が高鳴るのに気づかない振りをして、主任から目を逸らす。
「…岬さん、髪が口についてるよ。」
気づかないうちに風で髪の一筋が薄く塗った口紅についてしまい、それに気づいて取ろうとしてくれた主任の指が私の頬に触れた。
「えっ、あ、」
急に触れられたことに驚きと恥ずかしさで、体が硬直してしまった私を見て主任がふっと笑った。
あ、あれ…、
もう髪の毛は取れたはずなのに、主任の指が離れない。
それどころか私の頬を通過し、薄く口紅が塗られた唇の上を触れるか触れないかでユラユラと移動していく。
「…し、主任、口紅で指が汚れてしまいますよ。」
絞り出した言葉は主任の行動を否定するわけでも拒否するでもないような言葉。
どうしてそんなことを言ってしまったのか私にもわからない…。
だけど、主任の瞳が私を捉えて離さないから、まるで魔法にかかったように動けなくなってしまう。
「汚れても構わないよ。
いや、むしろ汚しているのは君じゃなくて僕のほうだろ?」
そう言って、主任の顔が段々と私に近づいてくる…。
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