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―――、
「…岬さん、岬さんってばっ。」
「えっ…?あ、何?聞いてなかった。ごめんなさい。」
名前を呼ばれたことにようやく気付き、慌てて答える。
「岬さんがボーっとしてしてるなんて珍しいわね。」
同僚達が驚いた顔で私を見る。
「朝から元気ないし、お弁当も進んでないけど夏バテ?」
「あっ、うん…、そうかも。」
本当は朝の主任とのやり取りが頭から離れなくて、他のことが考えられないからなのに…。
…キス、されるかと思った。
結局あの後…、
他の社員が出社して来てしまったから何事もなかったように離れたけど、もし誰も来なかったらあの後、…キスしてたのかな…。
「岬さんは彼氏とは相変わらず順調なの?」
「えっ?あ…、うん。順調だよ。」
急な質問に驚きながら、顔に笑顔を作りいつもと同じように答える。
「いいなぁ。付き合って4年だっけ?結婚も考えてるんでしょ?私も早く見つけないとなー。早く次の合コンしよっ。」
「イイ男探さなきゃねっ。」
盛り上がる同僚達の話に耳を傾けながら、心の中で溜め息をつく。
飲み会や合コンの雰囲気が苦手で入社してすぐに彼氏がいると嘘をついてもう4年…25歳の私は結婚も間近と思われていても不思議じゃない。
主任も私に彼氏がいるって知ってるのかな…。
「私は青田主任みたいに大人の男がいいなぁ。」
同僚の1人が言葉に、胸がドキッとする。
「主任は競争率高すぎでしょ?それに、秘書課の子と付き合ってるって言ってなかった?」
その言葉に胸に小さな傷みが走る。
…いつもなら何とも思わず通り抜けていく会話なのに。
朝にあんなことがあったからだと自分に言い聞かせ、胸の奥に芽生えかけた想いに気づかない振りをした。
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