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漆黒の闇の中、月明かりに照らされた都会の喧騒。
「オイ、早く代われよ!」
「あっ……慌てんなよ。も……もう少し……うっ!」
路地裏の死角となった片隅で、何やら複数の男達の声が響き渡る。
「たまんねぇなオイ!」
それは決して愉快な声では無い。
酷く不快で、醜いまでに浅ましい声。
“どうして……こんな事に?”
断続的に聴こえてくる笑い声と、荒い息遣いを遠く残響を背に思う。
声は出せない。出す事が出来ない。
何故ならその口内には、白い布切れらしき物を押し込まれていたから。
両腕は体格の良い二人の男に、がっしりと押さえつけられている。
それは女性の力で抗える訳が無かった。
「次は俺だ! オイ、へばってんじゃねえよ!!」
代わるように次なる、その声の男が重なってくる。
再度揺れ動くその身体。衣服は胸からはだけ、震動に身を任せるしか無い生気が失われた表情を見せる女性の瞳には、既に現実を映してはいない。
ただ涙が無常に線を引くその瞳、その視線の先にある光景だけを映して。
“絶対に……許さない!”
片隅には無惨にも頭部を踏み潰され、どす黒い血溜まりの中横たわる、白い仔犬の変わり果てた姿が其処にあった。
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