一の罪状

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「はい、もう大丈夫ですよ」 白い清涼感溢れる室内に、これまた穏やかで、透き通る様な優しい声が通る。 「ありがとうユキ先生」 まだ小学生位であろう三つ編みの少女が、満面の笑みでそう言いながら、愛しそうに小さな三毛猫を、その腕で包み込む様に抱えていた。 「体調が悪いと思ったら、いつでも連れて来るようにね」 白衣を纏い、印象的な四角の銀縁眼鏡の奥に映された、切れの長い瞳がとても穏やかそうな、それでいて精悍な顔立ちと、黒いサラサラの髪質とが相まって、芸術的な造形美を醸し出しているユキ先生と呼ばれた長身の男性は、少女と子猫の頭を交互に優しく撫でる。 その白く大きな掌には、有象無象の安心感に溢れ、少女のみならず子猫まで表情をほころばせている様に見えた。 「でも……お金が……」 途端に少女の目が曇る。 現実的に診て貰う為には、金銭が必要である事は小学生でも分かる常識。 「お金の事よりミクの事を心配する事。診察料はいつか恵美ちゃんが払える時で良いんだから……」 だがそれを意に返さぬ言葉の意味に、恵美と呼ばれた少女の表情は、明るさを取り戻す。 「うん! いつか絶対にミクと一緒に払いに来るからね」 少女はそう言い踵を返す。それと同時にミクと名付けられた子猫が“にゃあ”と、まるで御礼の声を上げた。 「お大事に……」 最後に『はぁい』との声と共に、少女と子猫は室内を跡にしていた。
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