1人が本棚に入れています
本棚に追加
端的に言うと、トラウマだった。
彼女は、”陸”が見たかったらしい。彼女らの住む世界は、いわば深海。太陽光を直接受ける事もないらしい。だが、彼女らは独自の文明の発展を遂げ、光やその他生活に適応した文化を構築したのだという。
その中で、誰しもが憧れたのが、地上。
太陽が差し、水がない。足で歩けて、飛べるらしい。などといった、噂が、広がっていたという。
しかし、それは憧れに過ぎなかった。憧れはするものの、所詮は噂だ。本当にそんな風景が広がっているかどうかもらからないどころか、水のない陸で、どうやって呼吸するんだ、という問題も出た。そのような未開の地へ、誰が足を運ぶというのだろうか。そう、いなかった。彼女を除いては。彼女だけがその憧れを現実にしようとした。本気で地上を見ようとした。
もちろん、みけの家族全員が止めた。陸に上がる事を心配したのはもちろんの事だが、それだけではない。俺たちもそうだが、彼女らにもまた天敵。そう、サメの存在である。彼女は、不運にも、それらと出会ってしまった。体はもちろん、奴らの方が断然大きい。
「わたし、あんなの見た事なくて、聞いた事はあったけど、本当にいるなんて……。」
みけが落ち着きを取り戻したのは俺の家についてしばらくしての事だった。
「わたしね、怖いの。海が、怖い。でも、戻りたいの……」
行きたくない場所の再奥に、帰りたい場所がある。そして、今いる場所は、はじめに憧れていた場所。
なんとも言えないこの状況に正直戸惑いを隠せなかった。彼女自身、どうすればいいか分からないでいる。やりたい事と、やりたくない事が同じになるシチュエーションなんて、想像していなかった。
だが、俺は思っていた。これは、運命ではないだろうかと。恋愛とかそういう意味じゃない。これは、何かを変えるチャンスなんだ。
「みけ。聞いてくれ。提案があるんだ。」
「なに?」
「俺と一緒に、海の怖さを克服しよう。」
最初のコメントを投稿しよう!