叶えるふたり

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「はぁ……」 本日5回目の溜め息。行き場のない思いが、一人だけの空間に広がり、消える。単刀直入に言うと、やることがない。休日が長くなっただけの夏休みに、何か特別なことをやれなんて、大人はすぐに無理を言う。もちろん、特別なことがあるのならば俺だってやる。しかし、特別なことが起きるのは、大抵お金持ちか、都会住みとか選ばれたごくごく少数だ。こんなど田舎に住んでいる俺の身に何が起きるというのだ。 「児島で特別なことなんてあるかよ。」 俺の生まれ故郷である児島には、動物園とか水族園とかの動物と触れ合える場もなければ大きなショッピングセンターもない。唯一山の上に遊園地があるのだが、この年のもなって、しかも地元の遊園地になんて行く気になれない。 唯一今年のの楽しみと言えば…… 「カメラ買ったことか。」 携帯とかで写真を撮ることが割と好きだったから、今年ついにカメラを買ったのだ。まだ真新しさは残っているものの、この夏休みの半分、何を隠そうこのカメラと過ごした。何気ない場所でも、ファインダーを通して見てみると、案外知らないことが多い。先ほど、児島は何もない場所だと言ったが、写真の素材となるような場所であれば、海もあるし、山もある。ある程度雰囲気のある町並みもちらほら。風の道っていうファンタジックな場所なんかもある。 それでも、特別って程に特別ではない。よくある小さな幸せとか、その程度の変化だ。違う一面を見る事が出来るのは確かに楽しい。しかし、大人の言う特別の度合いが10だとすれば、今している撮影は盛っても4くらいだろう。  ゲームとか、アニメとかの夏休みだと、このあたりで何か特別なシチュエーションでイベントが起きるのが定石だ。”高校生の夏休みは一回しかないんだぜ!”とか、”あの出来事が、私の夏を変えた--”なんて台詞で始まるとんでもストーリー。しかし、なんたって俺は現実の人間だ。朝起きたら、布団の中に女の子が寝てるとか、物干竿に修道女が引っ掛かってるとか、そんなことは起きるはずがない。 「妄想しても仕方ないな。今日は港に行ってみるか…。」 しかしながら、人は、しばしば願う。現実になることは絶対にないと分かってはいるが、願わずにはいられない。
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