叶えるふたり

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「妄想しても仕方ないな。今日は港に行ってみるか…。」 しかしながら、人は、しばしば願う。現実になることは絶対にないと分かってはいるが、願わずにはいられない。 ほら、よく言うだろ?宝くじは買っても大抵当たらないが、買わなきゃ当たらないって。 わずか1%未満の可能性でも0%じゃないと自己暗示をかけながら、無駄な事を願い続けるんだ。人間、”絶対”なんて言い切れる人は居ない。 かと言って、そんなちょっと格好つけた事を言っている俺自身も、若干の期待はしている。可愛い女の子が、気づいたら添い寝してるとか、オドオドした幽霊少女と出会うとか、猫耳少女が入った段ボール拾うとか、街角でパンを咥えた子とぶつかるとか。そんなくっだらないことばかり考えている。そして、もちろん俺自身それが実現するなんて思っていない。これで思っていたらいよいよ危ない人間だ。でも、それによって心が少しでも豊かになるならいいじゃないか、誰にも何もしていないんだし。  家から港までは、それほど遠くない。まぁ、港といってもちいさな市場がちょこんとある程度なのだが。しかし、そこから見える海は好きだ。晴れている日は、はっきりと瀬戸大橋も見えるし、少し霧の出ているときは、橋からの光がぼんやりと見える。 「ん?」 沢カニだ。 「今日は、生き物でもモチーフにしてみるか。」 この辺りには、引き潮のときにだけ、三角形の砂浜が現れるちいさなポイントがある。エンジェルロードのように広くなければ、大型の船とか、工場とか、無機物ばかりで全然ロマンチックですらないが、思わぬ発見のある、小さな穴場だったりする。 「……ん?」 先客が居た。こんな場所に人が居るのは珍しい。俺は穴場だと思っているが、工場と港とパチンコ屋に囲まれているこの風景は、決していいとは言えない。しかも、もうちょっと歩けばもっといい浜だってある。 まぁ、いいか。あんまり気にしない……し?  人は、しばしば願う。現実になることは絶対にないと分かってはいるが、願わずにはいられない。だからこそ、例え願っていたとしても、願っていた事が実際に起こってしまったとき、人は、声すらあげられなくなる。 絶望やら不幸やら言ってる状況じゃない。言ってる奴が居たら、多分それはその状況を楽しんでいる、もしくはカラクリを全て知っているかのどちらかだ。実際本当に予想外の事態に直面してしまうと、現状整理すらしている暇がない。image=461196403.jpg
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