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達成感と脱力感が全身に巡らされている中、おもむろに彼女の耳に手を伸ばす。今まで我慢していたが、この耳を触りたくて仕方がなかった。分かるだろ?是非全国の男性に共感して頂きたい。
「これを取るって発想がなんで湧かなかったんだよ……。」
じっくり見ると、その耳はかなり精巧に作り込まれている。彼女の髪色だけでなく、質まで忠実に再現されている。さらには、
「おぉ、あったかいぞこれ。」
そう、温度まである優れものなのだ。
触り心地も良い。暖かみもある。形状、その他諸々がまるで本物の耳のように感じた。今のコスプレ業界の頑張りに脱帽。
「んん……!」
「ぅぉっと」
不意に彼女から色っぽい声が漏れる。まるで耳に反応しているかのようだ。感情で動く耳と尻尾が海外で売られているらしいが、もしかしたらそれなのかもしれない。
と、冷静に分析していられたのもひと時に過ぎず。ちょっとだけなら、と、絶対に少しでは収拾がつかないであろうお決まりの台詞を心で唱えている自分が居る。
「ちょっとだけならいろんなとこ…触っても…いいよな…」
アニメや漫画なら、ここで天使の俺が出てきて『だめよ俺!理性を持ちなさい!』とか咎めてくれているのだろうが、俺の心に天使は住んでいなかった。悪魔も住んではんではいなかったが、恐らく今の自分自身が悪魔だと思う。
手始めに尻尾から―――。
「んっ……んん……。」
彼女、起きる。俺の手、止まる。
「あれ……ここは……?」
彼女、覚める。俺の手、戻る。
周りを見渡す、猫耳の女の子。そうだよな、いきなり見知らぬ場所で目が覚めたら、誰だって戸惑うだろう。
「あ……。」
目が合う。
急に、俺の心臓が大きくなった。なぜかって?決まってる。俺は今、犯罪まがいな事をしているも同然なのだから。もちろん、全ての行程を知っている俺だからこそ、これは救出だって事が理解できるが、彼女はもちろん、彼女を助けた事を知っている人は誰一人として、いない。そりゃそうだ。俺があのとき人目から隠れるようにここまで連れてきたのだから。くそっ。見つからないという事が裏目に出たか。
彼女に疑われた瞬間。それが起こった時、それが俺の人生のピリオドだ。こう思えば、俺の人生も盛大なクライマックスで終わるんだなと、しみじみ思う。もう、ヤバいとかヤバくないとか、そんなことはどうでも良くなっていた。
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