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窓も扉も無い、漆黒と化した部屋。
壁から錆びた鎖が繋がれており、血の臭いが充満している。
その死臭漂う空気を吸って、今を生きる者がいた。
「………」
暗闇の部屋に閉じ込められ、満身創痍の身体が横になり両手足が鎖で縛られている。
食糧も無ければ水も無い。何日間幽閉されているかは分からないが、生きている事が不思議であった。
「………すま、な……い。ア…ラ……シャ。」
噛み締める力が無いにも関わらず、渇いた唇を甘噛みする。
すると頭上から一筋の光が差し込んだ。
日の光を照らされた者は、ある筈のない気力を振り絞り立ち上がろうとした。
手足の自由が効かないのは承知のこと、振り絞った全力を頭に注ぎゆっくりと起き上がらせる。
「………?」
見上げた視線の先には光と共に、闇が広がっていた。
その光景を目にした途端、黒髪の男に無かった筈の気力が蘇る。
胸の内に秘めたドス黒い何かが、男の力の糧となり、原動力となった。
「ま……だ、まだ…存在(いた)のか……き、さま……らぁ″」
手足に縛られた鎖を無理矢理引きちぎり、回復した身体を起こす。
光と闇が差し込む部屋の中心に立つ男。
ボロボロの黒い服を着た男は天井を見上げると、歯を噛み締め全身にありったけの力を注ぐ。
「今度は……今度こそは根絶やしにしてやる。この手で、この力でッ!」
男の身体が黒く耀き始め、脚に力を入れ部屋の天井を突き破る。
外に出ると、昼間にも関わらず空が薄暗く雲が赤色、森は枯れ大地が紫色へと変色していた。
そんな異界と化した光景を、まるで見てきたかの様な様子の男。
怯えることも躊躇うこともなく、男は前へと進み出した。
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