第一章

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幼い頃は、何故だかは分からないがどうしてもあの花が欲しくて、ぴょんぴょんと飛び跳ねたり、夏に蝉を捕まえるために使用した虫取り網を持ち出してみたりしたのをよく覚えている。 木登りなどしたこともなかったのに、無理によじ登っては己の身の丈ほどの高さから落下して大泣きしたこともあった。   二十歳をすぎた今、そんなみっともない手段は使わないが、あのたった一つの存在を手にしたいという気持ちは…幼い頃から変わらずだ。 もう、手を伸ばすだけだが、小さかったあの頃とは比べものにならないくらい背丈も伸び、それとの距離は縮まった気がする。 ……届かないという事実は相変わらずなのだが。 そっと腕をおろし、上ばかり見続けていたせいで少し痛む首を労りそっと優しく項を擦る。
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