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「犬なんかって酷くない? 差別だよ、差別。犬だって生きてるんだよ?」
「いや、そうじゃなくて……」
やんわりと訂正しようとしたポセイドンの言葉を無視して犬は喋り続ける。
「最近そういう事多いよね。自分勝手に動物をペットにしておいて、飽きたから捨てるとかさ。ありえないよ、まったく」
「いや、だから……」
「だいたいさ、君達も自分を助けてくれた犬にお礼の言葉一つ言えないの? 僕は君達をあのまま闇の中にほっとく事もできたんだよ?」
「え? 助けたって……お前が?」
ここで初めて犬は彼らの問いに答えた。
「そうだよ。後、僕は『お前』って名前じゃない。僕はパン。ちゃんと名前で呼んでもらえる?」
「パンって、確か……」
「ギリシャ語で『全て』を意味する名を持つ大自然の神さ。もちろん君達に会った事もあるよ。まあ、その時はこの格好じゃなく……」
そう言ってパンは窓を軽く飛び越えて中に入ると同時に姿を変えた。
「こっちの格好だったけどね」
クルクルとカールした銀色の髪からのぞく一対の山羊の角を持ち、下半身は山羊という奇妙な姿になったパンを見て、彼らもようやくわかったようだ。
「あぁ、あの時ヘルメスが連れて来た半人半ヤギか」
「半人半ヤギって……。ネーミングセンスゼロだね、ハデス」
「うるせー、天パ」
「黙れツンツン」
「何でお前が入って来るんだよ、ゼウス!」
「入って何が悪い?」
「お前は関係ないだろうが!」
再びゼウスとハデスの喧嘩勃発。と、その時。
「いいかげんにしなさい!」
止めても止めても何度も喧嘩を繰り返す二人にさすがにキレたようで、珍しくポセイドンが大声で怒鳴った。
「!」
それと同時に地面が揺れた。
だいたい震度三ぐらいだろうか。五秒程度揺れは続いた。
そしてその揺れがおさまってから、
「すごいね……魂消滅の闇にいたのに、まだ神力使えるなんて」
パンが驚きを隠せない顔でつぶやいた。
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