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――その時、神界では――
「あーあ……やっちゃった……」
罪無き人々が倒れ、泣き崩れるのを見ながらため息をつく者がいた。
「まさか、大神ゼウスともあろう者が寝ぼけて雷をうっかり落としちゃいました、って言うわけにはいかないし……」
そう、彼の名はゼウス。正真正銘、全知全能の神だ。
「……よし、あそこにいた人々は全員罪人だったって事にしよう」
……神らしからぬ発言だが、彼は全知全能の神。彼がそう言えばそういう事になってしまう。
「おいコラ、ゼウス! てめえ、また勝手に大量に死人出しやがっただろ!」
低く響く怒鳴り声とともにゼウスの雲の上に乗ってきた者がいた。
「いいだろ、別に」
「良くねえよ! お前、ついこの前も人の真上に雷落としたじゃねえか! 俺の仕事を無駄に増やすんじゃねえ!」
彼もゼウスと同様、神。しかも、ゼウスとほぼ対等の神だ。
しかし、役割は全く違う。真逆と言ってもいい。
彼は冥界の神、ハデス。人の魂が最後に出会う死の神だ。
「まあ、そう怒るなよ。あいつら全員罪人なんだから。神の裁きをうけるのはしょうがない事だし」
「それはお前が勝手にそういう事にしただけだろ! 実際、罪のない奴もいたのに……」
「そいつらだっていつかは死ぬ。だったら同じ事だ」
「同じなわけないだろ!」
その言い争いが取っ組み合いとなりそうになった時、一つの手が割って入った。
「喧嘩はそのぐらいにしておきなさい。ハデス、あなたが留守にしているせいで冥界が死者の魂で溢れてしまっているそうです。早く行って裁いてきなさい」
さざ波のように落ち着いた声でそう言って喧嘩をとめた者、彼も神だ。
名はポセイドン、海の神。
「そうだよ、仕事サボっていいのかよ」
「ゼウス、あなたも勝手な事をしたのですから、ハデスの事を言う資格はありませんよ」
「俺にはあるんだよ。だって俺、最高神だし」
……この発言からもわかるように、今、神界ではゼウスの身勝手な行動がけっこう大きな問題となっていた。
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