ゼロ

《１》はじまり

「早く終わって彼氏と会ったのに喧嘩したなら最悪、仕事でトラブルを起こした上に彼氏と喧嘩したなら更に最悪。君のその"今日は人生で１番最悪な日"みたいな顔をみると、後者があたりかな」

淡々と話を進める男の観察力に驚く。男があまりに楽しそうに話すものだから、これが自分の話であることを忘れそうになる。

「どう？違う？」

そう言って私の方に目線をずらした。この男、完全に今の私の状況を楽しんでる。

「…ご名答。お得意様とトラブル起こしたんです。でも、トラブル起こして早く帰らされたわけじゃなくて、即クビだったんでもっと最悪ですけど。そりゃあ入社して１年もたたない新人が長年のお得意様とトラブル起こしたらクビにもなりますよ。でもいいんです。わたしには向いてなかったんですよ、あの仕事もあの男も」

男は笑った。なぜ笑ったかはわからないけど、楽しさの笑みではなくて、きっとあざ笑う方の笑みだ。